ピックアップレーサー記者コラム

あえて未踏の地を行かんとする
次代のフロンティアレーサー

2018年9月、浜名湖は歓喜に包まれていた。伏兵と目されていた関浩哉が第5回ヤングダービーを制したのだ。それも初優出初優勝であった。

「僕でいいんでしょうか…」
表彰セレモニーで開口一番こう話したが、それは堂々たる走りだった。
そして、「いろいろな人の支えがあって選手になれました。自分だけの力では絶対にここまでは来られなかった…」と感謝を口にした。
そんな素朴な人物は、世界遺産「富岡製糸場」近くで育っている。

「野球するにしても、人数が全然足りないのでいろんな特別ルールを編み出しました」とか「友達と秘密基地をつくって遊びました」と語るように「在りモノ」に頼っていない。それが活躍の原点である。

「プロペラ調整にしても乗り方にしても、どんなSGレーサーも思いつかなかった方法があると思っています。極端ですが、ハンドルを切らないでターンするとか…」という発想は奇想天外。しかし、過去の勇者の多くが先人を凌駕(りょうが)してきたのも事実。決して不可能と言い切ることはできないだろう。

感動の浜名湖を含め現在V11(6月11日現在)だが、その中に昨年5月の津の周年も含まれており、まさに記念レーサーとなった群馬の新星は、もはや伏兵ではない。

艱難辛苦に耐えたその道は、
まさに「栄光の架け橋」

2022年12月の大村グランプリシリーズ優勝戦は劇的だった。
伏兵と目されていた宮地元輝が3コースから鮮やかにまくり差しSG初優出初優勝を決めたのだ。
ゴールの瞬間、自らの胸とスタンドを交互に指差し、「気持ちで勝ったのだ」と誇示したが、事実「何よりもファンの皆さんが喜んでくれたのが一番!」と語っている。

競技は結果がすべてという者もいるが、その道程が困難に満ちていればいるほど結果の輝きは増す。宮地元輝という存在はそういう意味で興味深い。

桐生順平と同じ100期生はデビュー直前の体重が60キロ超もあり、支部の先輩から「プロとして自覚がなさすぎる」と、取り組み姿勢やレースの甘さを指摘されることもあった。
そうした忠告を身に刻んだ成果が2013年1月のびわこ一般戦V。減量にも成功し以降、毎年優勝を飾り続けている。

一方で、失敗も当然ある。
語り草になっているのは2018年4月の唐津周年優勝戦。6号艇で極端な前づけに動き90m起こしの2コースに入ったが、コンマ05のフライング…。周囲の反応は立ち直れないほど厳しいものだった。
そうした艱難辛苦(かんなんしんく)に耐え、2022年9月の福岡69周年Vを勝ち得たのである。

こうしてSGウイナーとなったが、その視線はもっと上。SGの中のSG・グランドチャンピオンが宮地元輝にとって「栄光の架け橋」となる可能性は小さくない。

オールラウンダーの原点は
謙虚な精神と地道な一歩

毒島誠を「ボートレース界の良心」と評する声がある。
5月に参戦した児島周年記念と芦屋オールスターでは「自分のスタイルとまったく異なる」プロペラに遭遇。調整に苦しんだが、それでも「自分の方がおかしいのかもしれません」と語り、前操者の考えを否定しなかった。
SG7冠、G1V16という第一人者でありながら、強いこだわりがなく謙虚なのだ。

その志向性は日々のトレーニングにも発揮されており身体づくりに余念がないばかりか、新しい理論にも積極的。ゴールを設定していないのだ。

振り返れば、地道に前進せんとする姿勢はデビュー当時からあった。気温・気圧・湿度・整備・ペラのタイプや調整の方向性・ニードル・回転数・回転の上がり方・スタート・感触などを詳細メモにしてきたのだ。
「ノートを見返すことはあまりありませんが、書くことで覚えるものですね…」と、新鋭世代に語っている。

そんな姿勢の成果が現在。SG参戦は88回。SGの中のSG/グランドチャンピオンは10年連続11回目だ。
グラチャンの舞台徳山は、2016年10月の周年記念を制した水面。6コースからの自力のまくり差しは圧巻だった。
コース不問のオールラウンダーが、V2の徳山で再び感動を呼ぶ可能性は高い。

徳山V21、G1V2を誇る地元の雄が
絶対的な主軸となる!

SGグランドチャンピオンはSGの中のSGと呼ばれている。ディフェンディングチャンピオンや前年のグランプリ優勝戦出場者、その年のボートレースオールスター優勝選手、前年4月から当年3月までのSG優勝戦完走者にSG予選競走得点上位者が出場できる特別な大会だ。SG初出場はない。

そんなツワモノがそろうシリーズに出場するたった一人の地元レーサーがSGV2の寺田祥。118回目のSG戦だ。

2017年8月の若松ボートレースメモリアルでSG初優勝を果たした際、「プレッシャーは特になかった。自分らしくなく、きれいに回れた」と振り返ったように、常に飄々(ひょうひょう)としており周囲に気合いを感じさせることがない寺田祥。しかし、「群れたくない。一匹狼でいい」と静かに語ったこともあるように価値観を内に秘めるタイプだ。
最近は「そんなにカタヒジ張ってませんけどね…」と笑うが、しかし、流されることなく自律的に戦ってきた25年あまりの歴史がある。
その自律性を証明するのがスタート力。フライング9本、出遅れ3本、合計12本とスタート事故が極めて少ない。同期のSGウイナー池田浩二は33本、佐々木康幸は23本である。

戦いの舞台徳山はこれまで記念V2を含み優勝21回。絶対的な主軸となる存在として多くの期待を背負うが、きっとプレッシャーは感じないのだろう。

クイーンズクライマックス連覇で証明された
鋼の強さ

2012年12月に大村で初開催されたクイーンズクライマックスは女子最高峰の戦いと位置づけられているばかりか、第3回大会から大晦日が優勝戦になったこともあり、その年のボートレース界を総括するシリーズとして注目されるようになっている。その歴史を彩る一人が連覇中の田口節子。福岡の第10回大会は2コースまくりで、昨年の住之江大会は2コース差して栄冠を手にしている。

デビュー当時からそのポテンシャルが高く評価されてきたが、持ち味はコース不問の自在戦。自力で展開をつくることのできる女流一番星はレディースチャンピオンでも2回優勝している。

2011年 第24回レディースチャンピオン(三国) 3コースからまくり差し
2012年 第25回レディースチャンピオン(多摩川) イン逃げ
G1V4の決まり手にその多彩な戦いぶりが表れている。

2022年の年間勝率7.39は2位の寺田千恵(7.02)を大きく引き離し1位。1着回数、優出回数もナンバーワンに輝くなど、その自力の証明は不要とさえいえる。
オールスター、オーシャンカップ、ダービーに出場した2022年を超えるため、参戦2回目のグランドチャンピオンでオールマイティな戦いぶりを披露する!

連覇&V3をかけ、
イケコウがカッコよく徳山を舞う

池田浩二は今、ヤングファンの間で「イケコウ」と呼ばれている。2023年4月3日で45歳となったが、誰よりもファンに愛されているトップレーサーである。グラチャン前のオールスターでは2万3071票を獲得。2012年以来2回目の得票1位に輝いたのが証左だ。

・相手を選ばない強さがある
・勝負師の色香を感じる
・コース取りを含めレースがキレイ
・モーターが出ていなくても何とかする
・勝っても負けても姿が変わらない
・ニヒルなようでいてどこか洒落っ気がある
・ヤンチャな感じがする
・ことばに重みがある
若いファンは、その魅力に付いて行こうとする。

昨年の第32回グランドチャンピオンでは「唐津という土地柄や人の気質と相性がいい。ぜひ優勝したい!」と宣言。それを完遂し10個目のSGタイトルを手にしている。

「すごく緊張すると思っていたが、水面に出たら普通のレースだと感じ肩の力が抜けた…」。
2011年の第26回グランプリ優勝についての発言に、極まった場面でも平常心でいられる精神力が垣間見えてくる。

グランドチャンピオンは2003年の第13回大会(丸亀)も優勝しており、連覇&V3がかかる。
注目一番手であることは間違いない。