23#

ピックアップレーサー記者コラム

峰竜太はまだ地元の唐津周年記念を取っていない。ボートレース界七不思議のひとつである。 驚異的なV14とした昨年のしめくくりがSGグランプリの優勝。1億円の優勝賞金を含め、昨年は2億5302万円あまりの賞金を獲得したばかりか、最多勝利(134勝)、最高勝率(8.71)のタイトルも手にし、堂々2回目の最優秀選手(MVP)に選ばれている峰竜太。最高勝率は2015年から6年連続である。 その強さの原動力は考え方と行動にある。 「まず基本ですね。基本を学び必死に練習することですね。最初はセンスの差、次に向上心の差が結果に出ると思うんですが、最終的には努力の差だと思います」と語っている。 そのうえで、「勝負は一回!」だという。たった1回の真剣勝負のために努力するのが峰竜太流である。 「できるまでやる」姿勢である。 屈託のない笑顔、敗れた時の涙、ファンへのサービス、正直な発言など人間的な魅力は限りない。 徹底した上昇志向の峰竜太が、地元周年記念初優勝に挑む。

上野真之介は2020年グランプリ覇者の峰竜太を師としている。これまで3300走余りで1着が900回以上。27%の1着率を誇る。優勝は21回だ。 そして、2021年前期勝率を8.04とした。自身初の8点台である。いま上昇一途といっていい。 そんな上野真之介は県立唐津工業高校の卒業生。養成所時代のリーグ戦勝率は5.94と平凡だった。 しかし、峰竜太の存在が上野を支えてきた。 デビューは2008年5月(6着)。出走27走目で初勝利を挙げている。 G1初出場初勝利は芦屋の「第26回新鋭王座決定戦」(2012年)だった。2018年12月には住之江の「グランプリシリーズ戦」でSG初出場。この年から記念戦線に定着していった。 「調整や試運転を繰り返すのが自分のやり方。おそらく誰よりも水面に出ていると思います」と語ったこともある。まさに有言実行の主だ。 「名前を覚えてください」とファンの前で語っていたのは昔話。この周年記念で佐賀のニュースターが生まれる予感がする。

『度量衡』という言葉がある。『度』は長さ、『量』は体積、『衡』は質量を表す。つまり、ものさしや秤を意味するのだが、人生の師である古老は「人物の大きさをはかるときにも使う」と教えている。 未来と過去を見通す時間軸が長く現実を受け入れる器が大きく言動が重厚である者を、人は尊敬する。 まっさきに吉川元浩が思い浮かぶ。 阪神淡路大震災という未曾有の経験を経てボートレーサーを目指したというが、人知を超えた大きな渦の中で生かされている確信があるはずだ。 結果に一喜一憂しない姿勢と2007年・福岡グランプリVで語った「今年、自分が一番努力した」という言葉は相反するようだが、その根底には『人事を尽くして天命を待つ』精神がある。 そして待った甲斐は確かにあった。 2019年戸田で開催された第54回ボートレースクラシックで、自身2回目のSGタイトルを取ると、続く5月のボートレースオールスター(福岡)でも優勝。その年のグランプリメンバーとなった。 さらに昨年3月の平和島ボートレースクラシックも優勝している。底力は果てしない。 吉川元浩は、結果の窓から見てはならぬ大きな男である。

「普通の1号艇でした」。池田浩二はグランプリの優勝戦をこう振り返った。 2011年と2013年の住之江グランプリはともに1号艇、インから逃げたときの回顧である。 「1億円のレースだという特別な気持ちにはならなかった」平常心はマネのできるものではない。 日頃の過ごし方やレースへの向き合い方にヒントがあるだろう。 その秘密はこだわらない考え方にあると言っていいはずだ。 「自分は物欲があまりない…」と教えてくれたことがあるが、物欲に限らず名誉欲や出世欲が邪魔になることはよくあることだ。欲が出れば出るほど硬くなりやすい。 普段の力を出すためにこそ力を抜く必要があるが、池田浩二はそれを当たり前のように体現している。 モーター抽選結果に一喜一憂しない姿勢、勝っても淡々としている姿と根っこは共通するだろう。 池田浩二はだからこそ強いのだ。

きっと悔しいだろう。白井英治は年間勝率が極めて高い。 この5年間の記録をひも解くと 2020年…8.23 2019年…8.48 2018年…8.05 2017年…8.04 2016年…7.94であるが、いずれも峰竜太に届いていない。あと一歩の2位に、3度甘んじている。 この悔しさはファンも感じているだろうが、といって峰竜太を標的にしているのではない。自分が自分に悔しいだろう。 レジェンド・今村豊さんの薫陶を受け、「かっこよくきれいに勝つ」ことを信条としてきたのが白井英治。 そのレースには見応えがあり、「流れを無視しないコース取り」「全速でスリットに飛び込んでいくスタート力」「迷いなき判断から繰り出される鋭角ターン」「気持ちで負けないからこそ成し遂げられる接戦での強さ」など 枚挙にいとまがない。「ホワイトシャーク」というニックネームもあいまってファンは魅了されるのだ。 成功体験だけが、ここ一番の強さの秘訣なだけではない。数々の「失敗体験」も自らを磨く要素となっている。だからこそ白井英治の存在はしなやかで美しい。その雄姿が見られる唐津周年である。

もはや古老となったアナウンサーはこういう。 「一流は呼び捨てにされる」と。 王貞治&長嶋茂雄、大鵬&柏戸、尾崎将司&青木功&中島常幸、さらにイチローやダルビッシュのように…。 「つまり、ブランドなんだよ」と説明してくれた。 今、ボートレース界では「松井繁」だろう。「王者」だから当然である。 デビュー32年で優勝135回。内SGV12、GⅠV58である。グランプリは1999年、2006年、2009年の3回優勝している。正真正銘のボートレース界のブランドである。 追う者からはタワーの如くハッキリと見えるそんなトップアスリートも、本人の視点に立てば踏み慣らされた道は存在しない。 「王者」の看板は軽いはずもないが、松井繁に悲壮感はなく淡々と歩んでいる。 端麗な姿の向こうに計り知れない努力が隠されているのに…である。 ボートレース界の誇りでもある松井繁というブランドが、13年ぶりの唐津周年優勝を狙う。