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ピックアップレーサー記者コラム

「まだまだ自分のターンは完成していません。もっと精度を…」。令和4年優秀選手表彰式典でこう話したのはMVPに輝いた馬場貴也。賞金ランキングは2位ながら、常滑ダービーのほか、下関と戸田の周年記念の優勝が高く評価されての受賞だった。SG常連レーサーをもうならせるターンは特徴的で「左足にウエートをかける」方式。例えば、同県の後輩・丸野一樹とは真逆の乗艇フォームだという。そして、接水面積を極力小さくするウイリーモンキーで高速のままボートを操るのだが、いつになっても完成しない。つまり、追究はどこまでも続くのだ。そんなハイスペックターンを駆使し、今年はここまでV6。住之江の近畿地区選手権(2月)を皮切りに、常滑(3月)、びわこ(5月と8月)、三国(8月)で優勝。福岡のボートレースメモリアルで自身4回目のSGウイナーに輝いている。9月12日時点の賞金ランキングは堂々1位。3年連続5回目のSGグランプリ出場を確定づけているのだ。参戦する「びわこ大賞」は2020年8月の68周年記念で優勝しているが、その時の5コースまくり差しはあまりにも鮮烈で、多くのファンの脳裏に焼き付いている。あれから3年。地元周年2度目の戴冠を多くのファンが期待している。
およそ8年ほど前、丸野一樹はある決意を胸にしていた。「心身を鍛えることからやり直す」ことを自らに課していたのである。今や誰もが知るところとなった「マルトレ」のはじまりである。当初、その取り組みに関心を示したのは同世代のレーサーだけだったが、徐々に周囲の関心が集まるようになる。一般社会人へのレクチャーが広がりをみせるなど、科学的で効果的なスポーツトレーニング法であると理解されるようになったのである。その成果は2019年にやってくる。この年、「びわこ大賞」を含めV6を達成。鍛えた体幹が勝利を導くと、自ら証明したのであった。「自分の旋回フォームは、右に体重を乗せエッヂをかけるスタイル…」と特徴を明かすが、それは今後も変化成長する可能性の示唆。フィジカルトレーニング同様、乗艇技術に終着点はないのだ。昨年12月のSGグランプリ・トライアルセカンドでフライングを切り、SGは4大会選出除外となっていたが、今年8月の福岡ボートレースメモリアルで復帰。準優に進出(6着)するなど存在感を示している。その流れで、来たる「びわこ大賞」で7つ目のG1タイトルを取れば3度目のグランプリ出場の道が開けてくる。期待したい。
今年8月のプレミアムG1「第37回レディースチャンピオン」(津ボート)は感動的だった。2号艇の遠藤エミが2コースからコンマ14のスタートを繰り出し「まくり」で優勝。2021年の浜名湖大会以来、2大会ぶり2回目のレディースチャンピオン優勝を果たしたのだ。レース後「作戦は何も決めずいきました」と語ったが、一方で「今日は逃げが決まらない日だったので、絶対チャンスはあると思っていました」と振り返ったように、チャンスへの備えがあったからこその栄冠だったことは論を待たない。2022年3月のSGボートレースクラシック優勝がその証左だ。9月12日時点で女子賞金ランキングは1位。クイーンズクライマックス出場はほぼ確定的だが、グランプリ出場の可能性もある。過去優勝4回の地元で「びわこ大賞」を取れば、賞金ランキング47位から20位台にジャンプアップできる。昨年初出場したものの消化不良に終わったグランプリのリベンジが待っているのだ。浜名湖レディースチャンピオンを勝った時には「自分より自分を信じてくれるファンがいる」と涙し、今年の津では「もっともっと上の舞台で活躍できるように力をつけていきます」と宣言した遠藤エミ。人の気持ちを慮(おもんばか)るアスリートに声援はよどみなく届くはずだ。
時折「ターンが下手です…」「もっとうまくなりたいです」と、守屋美穂は時々口にする。それも、敗れた後だけではない。勝利した直後にもいうことがある。また、勝者インタビューなどで「結果を出していないのにファンの皆さまに投票いただき感謝しています」と静かに語ったこともある。忸怩(じくじ)たる思いであること、軽々しい気持ちでないことはその表情からも分かる。桐生のレディースオールスターを制した2022年はV5としたものの、8月の丸亀レディースチャンピオン(準優敗退)や鳴門レディースチャレンジカップ(優勝戦2着)、住之江クイーンズクライマックス(優勝戦6着)で栄冠を勝ち得ることができなかった。今年は2月の児島中国ダービーで優出したものの5着。5月の児島周年記念は準優3着と涙をのんでおり、女子人気筆頭格でありながら、未だG1タイトルを手にできていないことへの思いも強いだろう。今年はここまで9優出3優勝。9月12日時点の女子賞金ランキングは2位と堅調だが、「びわこ大賞」で活躍しクイーンズクライマックスへの足場を完全に固めたいところ。「見ていてください」のメッセージに込められた熱き勝負魂を感受したいびわこである。
スポーツは日進月歩。過去を超える新理論が続出している。ボートレースも同様で、ターン技術やプロペラ理論がそうだ。一方、温故知新という言葉もある。古いことがらから新しい道理や知識が得られるという諺(ことわざ)である。ボートレース界に大きな価値変動を起こしている高田ひかるだが、実は温故知新の一面を持つアスリートである。元レーサーの意見や手法にも真摯(しんし)に耳を傾けつつ、「現役の方からこっちの方がいいんじゃない、と言われまして…」と語るように、世代も地域も男女も関係なく、素直に聞き入れた結果が今の「まくり姫」スタイルなのだ。他者の考え方や取り組み・成功や失敗・歴史を受け入れることで、ボートレーサーとしての立ち位置が分かり、自身が何をなすべきか考えてきた高田ひかる。ファンが期待するレースを体現し、カタチにする方法にまっすぐ向き合ってきたのだ。しかしそれは失敗の可能性を内在するもの。ある種の恐怖を伴っていたはずだが、屈しなかった。度胸があり、大らかで他者の眼差し(まなざし)を許容できるスケール感がある人物である。今年の優勝は4月の鳴門オールレディースのみだが、津の周年記念(4月)で優出2着とし、9月12日現在の女子賞金ランキングは4位。物語はここからが本編だ。
今年7月、ボートレースびわこは歓声に包まれていた。G2「第67回結核予防事業協賛 秩父宮妃記念杯」で藤原啓史朗がインから逃げ切り完全優勝したのだ。初戦から数えること、「3コースまくり」「5コースまくり差し」「4コースまくり」「2コース差し」「5コースまくり差し」「イン逃げ」「イン逃げ」「イン逃げ」の完勝だった。G2パーフェクトVは2009年4月の大村モーターボート誕生祭を制した服部幸男以来史上5人目。記念常連とてなかなか成し得ない偉業達成に、「涙が出てきそうです。いつも通りにいこうとしたんですが、やっぱり緊張しました。夢のようです」と語りつつ、「皆さまの祈りと自分自身の精進もあり達成できました」とおどけてもいた。そして、「これからも僕のことを応援してください」とファンを前に言えるほど素直で朗らかな人物である。今年7月には地元児島でSG初参戦。今後ますます活躍が期待される藤原啓史朗の持ち味のひとつが平均コンマ14のスタート力。これに10年あまりの経験をもとに築き上げてきたレース展開力がある。今回も威力ある5コースからのまくり差しは要チェック。序盤に勢いがつけば完全優勝再来の可能性は小さくない。