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ピックアップレーサー記者コラム

およそ1600人いる現役ボートレーサーは公益社団法人日本モーターボート選手会に所属している。その名が示すとおり公益に適う活動を旨とする団体は、選手を守るだけでなく社会貢献活動も柱のひとつ。瓜生正義はその会長として先頭に立っている。1995年5月のデビューから数えること約28年。SGV11、G1V20という実績は堂々たるものだが、ファンは「正義のヒーロー」と称し敬意を表している。常識的でまっとうな姿勢への共感があるのだ。2021年の住之江グランプリで優勝した際「事故はほんとうに残念ですが、回るときは決まったなと思いました」と発言。妨害や転覆事象に配慮をみせた。と同時に、自身の競走への自信と確信を卑下したり照れることなく率直に話したのである。まさに正統派だ。闘志をむき出しにする競技者がいる一方、飄々(ひょうひょう)としている者や学者肌、そして自制派などがいるが、瓜生正義は自律的な自制タイプといっていい。他者の視点をもつ行動哲学者は、何と戦うのか、何を目指すのか、何を与えるのか、といった命題と向き合う大きな存在である。人は大きいものに憧れる。瓜生正義というアスリートの理想を愛でる絶好の機会がびわこにやってくる。
2015年3月、常滑周年記念の優勝パレードで平本真之は歓喜の中にあった。スタンドを埋め尽くした切れ目のない祝意がファンの共感をそのまま表していた。共感はレースぶりだけではない。苦境にあっても笑顔を絶やすことなく乗り越える力を有しているのだ。いわば明朗エンジンの持ち主である。かつて、野球部の恩師が「プロレーサーになっても高校時代から姿勢が変わらない」と語ったことがあるが、20年経てもなおさびることのない純真さが魅力。勝つ喜びも負ける悔しさも、戦う場を与えられなければ味わうことができないことを知っているのだ。バッターボックスに立てるだけでうれしい野球少年のようである。SGは2014年の平和島グランプリシリーズで初優勝。以来、2016年の尼崎ボートレースオールスターと2021年平和島ボートレースダービーを制しており、G1タイトルはV4。この愛知の精鋭はモーター抽選で好素性機を引けず苦しむこともある。が、そんな時「正直出ていません」と言いつつ決して弱音を吐かない。手を休めることなく次の調整に取り組むのである。熱心なファンは「平本さんが下を向くことはないし、だから励まされる…」という。そういった前向きな姿勢がもたらす栄冠こそ、価値が大きく重い。
峰竜太が朗らかに記念戦線に戻ってきた。「苦しい状況の時に強いのが本来の自分…」とためらいなく語るところに「らしさ」が表れている。「人がどうこうではなく、自分の技術を磨くことが課題」とは、ごくごく最近のことば。誰も見たことのない世界、実現していないターンを今なお追究しているのである。峰竜太の頭の中には「完成」という二文字はない。ほぼ一般戦を走った2022年、峰竜太は169出走し88の白星を挙げている。1着率は52.0%だ。1コース91.1%、2コース44.0%、3コース57.1%とその勝ちっぷりは驚異的。さらに4コース25.7%、5コース30.4%に至る(6コースは0%)。数値が実力を如実に物語っているのだ。今年に入り「いい結果が出せていない」と語るが、悲観するような状況ではない。今後は間違いなく記念戦線の中核となるだろう。選手紹介や勝者インタビューでみせるALOHAポーズには、「思いやり」「調和」「心地よさ」「謙虚さ」「忍耐強さ」が込められている。それは、すべての人に向けられたメッセージであり励まし。2021年10月に周年記念を制しているびわこで再び満面の笑みとALOHAが見られることを多くのファンが願っている。
業界をつくるのはファンである。関係者でもなければ選手でもない。西山貴浩はそれを体現している。その言動の面白さ、雰囲気の楽しさから絶大な人気を誇り、「ニシヤマを見よう」とファンを引き付けてきたのはまぎれもない事実だ。それでいてレースは厳しく妥協がない。それもファンのために走っているからである。「1号艇で負けると寝られない…」と目を真っ赤にして語ったことがあるように責任感の塊。つまり、自己への厳しさを裏打ちとした他者へのまなざしをもっている人物なのである。一見、何も考えていないようにみえて実はスケールの大きな人物なのである。そして視野が広く、思いが深く、志が高く、人に優しく、勝負に強いのだ。逆境にも強いと断言できる。いくら機力劣勢といえどもあきらめないのだ。そのカタチが2020年9月の徳山G1ダイヤモンドカップや2021年1月の江戸川周年記念Vである。人生は思うようにいかない。時に不運に見舞われることもある。そして、自分の力だけで周囲を操り恣意的に行動することはできない。そんな思いにまかせない時の考え方や行いこそが「人生哲学」。西山貴浩が語る世界にどっぷり浸ってみるのも一興である。
2020年8月の多摩川レディースチャンピオンで、平山智加は「悔しい思いをたくさんした大会…」と涙した。2011年の24回大会をはじめ26回、27回でファイナリスト1号艇になりながら苦杯をなめていたからだ。2コースまくりで勝ち得た栄冠を手に「こういうレースができるように頑張りたい。これからもファンのため、家族のため心を込めて精いっぱい走ります」と結んだ。その未来志向は、「出産は大変だけどゴールではない、子育てのスタート。それも終わりのないスタートです…」という考え方と同じである。プロセスを大切にしているのだ。自らのYouTubeで丁寧なボートレース入門編を発信しているのも、プロセスの連続の人生を、ファンとともに過ごしていきたいという思いからだろう。ともすれば上から目線になりがちなプロの技術やレース前の準備について平山智加は、初心者目線で丁寧に解説している。誰もが最初はビギナー。そんなファンあってのボートレースであることを自覚しているのだ。昨年はレディースチャンピオンとクイーンズクライマックスで優勝戦に進出したが記念Vはならなかった。今年こそは、という思いであろう。G1V3の実力を発揮し、中身の濃いレースで栄冠を目指すことになるびわこだ。
大山千広は、昨年10月の丸亀ヴィーナスシリーズで落水。骨盤を骨折し完治に4カ月を要している。復帰は2月下旬の蒲郡レディースオールスター。「30分くらいしっかりランニングできるようになりました」と回復をアピール。加えて、「入院中たくさんの励ましをいただきましたし、多くの投票をいただきありがとうございます」と感謝のことばを口にしていた。「あまり練習できなかった」こともあり、レース勘にやや不安を残していたが、実際は優勝戦進出。いかにポテンシャルが高いかが分かる。平成30年優秀選手表彰式典で「最優秀新人選手」に選ばれた大山千広は27歳。もう新人ではない。「小学生の頃からカッコよく感じ、憧れだった」母を慕ってボートレーサーになったが、その母が言う。「私たちの頃と感覚や考え方がまったく違います。限界を設けず、自分で考えて自分で行動している」。そして、その姿をみて「教えることはない」と感じたという。デビュー当時から、「ターンを磨きたい」「究極のスピードターンを身につけたい」「どんな状態でもボートを安定させられるようになりたい」と懸命に練習に取り組んできた大山千広。フライング禍やケガを乗り越え、その存在は厚みを増していると断言できる。