ピックアップレーサー記者コラム

第50回ボートレースオールスターには初出場選手が12名いる。
そのひとりが新開航だ。125勝し最多勝利選手に輝いた令和4年はV10をマークするなど八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍を果たした。1年間の1着率は3割9分8厘。野球でいえば夢の4割打者に匹敵する数字である。ちなみにイン1着率は93.5%である。
こうした成果が昨年のグランプリシリーズ戦でのSGデビューを導き、今年3月のクラシックにつながったのだ。

「同期優出一番乗り!」
デビューの宣言を現実にするなど目標を掲げ成し遂げてきた有言実行の人の周辺には、修了記念競走Vの板橋侑我や養成所勝率1位だった宮之原輝紀、G1ウイナーの栗城匠などツワモノがそろっている。野球で培った闘争心と勝負根性に火がつきやすい環境が幸いしているのは間違いない。

今後は、SGレーサーという強敵と相まみえることになる。当然、勝利する難しさは飛躍的に上がるが、むしろ望むところだろう。
令和4年優秀選手表彰式典で「上の舞台で活躍する先輩のようになりたい」と明言。コース不問でオールマイティに戦ってきたスピードをテクニックを磨く絶好のチャンスだ。
それをファンが与えてくれた3,546票もの期待に応えるためにもひたむきに前進する。

人は、かっこよさに憧れるが、かっこよさの定義とは何だろうか。むずかしい命題だが、定義はなくとも答えがある。濱野谷憲吾だ。
1997年の常滑大会から今年まで27回連続で選出され続けているオールスター男は、新進気鋭の20代も、地位を確立した30代も、熟練期の40代も、人を惹(ひ)きつけ続けている。その魅力は、周囲や流行に左右されないスタイルや意志。おまけに、群れずに自立しているからなおカッコいい。

そんな濱野谷にも不調はあった。
2015年6月の江戸川以降G1タイトルから遠ざかってしまっていたが、2018年6月の丸亀周年で優勝。強烈に攻めるレースを再現させ、住之江高松宮記念(2018年10月)、大村ダイヤモンドカップ(2021年4月)、芦屋オーシャンカップ(2021年7月)で栄冠を手にするなど復活を印象づけたのだった。

「まくらない濱野谷」というファンの評価は一転。自らの反省と意志で攻撃力を回復させた内なる変革に共感が集まることとなったのだ。

大事にしているのは乗り心地、操縦性である。自分の思い描いた旋回をカタチにするためのプロペラ調整は感覚的だが、しかし31年にわたる経験値がある。それも記念戦線で鍛え上げてきた勝負勘のようなタカラモノだ。

昨2022年は悔しさを味わうことになった。住之江のクイーンズクライマックスへの出場権をかけた賞金争いは最後の最後まで厳しい接戦となり、惜しくも14位。12位の堀之内紀代子との差はわずか78,500円。2年連続出場の夢は果たせなかったのだ。

通算優勝12回、記念Vなしながら今回6,268票を得てSG初舞台を踏むこととなった渡邉優美。その魅力はレース展開力にある。
何よりコース不問なのだ。
2022年度(2022年4月~2023年3月)の成績は次のとおりだ。
1コース:1着率76.3% 3連対率94.3%
2コース:1着率21.0% 3連対率76.1%
3コース:1着率14.2% 3連対率65.5%
4コース:1着率15.1% 3連対率72.6%
5コース:1着率7.6%  3連対率63.9%
6コース:1着率0%   3連対率17.8%

出足系の感触を大切にし、スピードとテクニックの両方を融合させたレースに安定感があり舟券を託すにふさわしいと感じているからこそ、ファンは推挙したのだ。
戦いの舞台・芦屋は昨年3月と12月に優勝している得意水面。期待に違わぬ競走で魅了してくれるに違いない。

「まだ実感がわかないです」。
宮島の第49回ボートレースオールスターを制した原田幸哉は表彰セレモニーの冒頭でこう口にした。
3コースから鮮やかにまくり差し自身5つ目のSGタイトルを手にしたが、「皆さまからの投票に応えられて自分のボートレース人生の幸せを感じています」としみじみ語る姿に、8年連続22回にもわたり推挙してくれたファンへの深い思いがこみあげていたのだ。
今年で9年連続23回目のオールスターだ。

時に、「思うようなレースができていない」と語ることがあるが、それは明確なイメージをもっているからにほかならない。そして、ファンの期待に応えられないことへの忸怩(じくじ)たる思いが背景にあるのだ。
求めているのは豪快さと軽快さ、そして鋭さを融合させた美しいターンである。
全国各レース場のコースレコードを保有していた20代、かかりを「入れたり外したり」しながら自在に旋回していた印象は何ら変わっていない。日本一美しいモンキーターンを称する声があったほどだ。

47歳となった今、伸長著しい若手が群れのごとく押し寄せてくるが、決して押し込まれるような存在ではない。史上3人目のオールスター連覇はファンの夢でもある。

アスリートのスタイルはさまざまである。
闘志をむき出しにする猛者がいる一方、飄々(ひょうひょう)としている者やひとつのことに打ち込む学者肌、そして冷静沈着な自制派などである。
現選手会長の瓜生正義は「自制タイプ」の典型。自分を最優先にしない他者の視点をもつ行動哲学者である。

喜びが大きい分、悲嘆にくれるのも勝負の世界。往々にして、目標を見失ったり迷ったりするものだが、そんな大命題から逃げないからこそ選手会長という要職を担いながらレースに参戦できるのだ。それはとりもなおさず、ファンの信頼に結びついている。

直近の優勝となった2021年12月のグランプリは、3艇転覆、1艇妨害失格という大きなアクシデントに見舞われたが、「ほんとうに残念ですが、回るときには決まったなと思いました」と自制的にかつ明確に語っている。実直な語り口ゆえ聞き逃してしまいそうだったが、「1マーク前で勝利を確信した」と言っているに等しい発言に、混ぜてはならないことがらを混濁させないで考える明晰(めいせき)さが表れている。

オールスターは5年連続22回目。芦屋は周年記念や九州地区選を含みV16としている地元水面だ。その大らかな人物同様、スケール感あるレースで見る者を魅了してくれるに違いない。

今年2月、茅原悠紀は地元児島で初の記念タイトルを手にした。中国地区選手権競走だった。
感触のいいモーターを相方に、あまり手を加えることなく予選・準優をクリア。ファイナルは2コースから差し切って9つ目のG1タイトルを手にしている。

そのスピード感あふれるレースと屈託のない人柄がファンのハートを射止め、オールスターは12年連続12回目の出場となった。愛される人である。

一時期、険しい表情をしていたこともあったが、最近は「レースを楽しみたい」と語っている。
結果を怖れず自然体でレースに臨むこと、それが結果にもつながると確信しただけでなく、ボートレースの魅力を存分に伝えるために欠かせないと感じたのだろう。

持ち味はどのコースからでも連に絡めること。頼もしい存在である。
以下は2022年度(2022年4月~2023年3月)のデータである。
1コース3連対率 91.6%
2コース3連対率 71.6%
3コース3連対率 78.0%
4コース3連対率 79.9%
5コース3連対率 56.0%
6コース3連対率 57.5%

その勝利を、ファンとともに「楽しむ」ことができたならこれほどの喜びはないだろう。