ピックアップレーサー記者コラム

ピックアップレーサー記者コラム

3941 池田浩二

「長い間SGタイトルを取れていなかったせいか、緊張しませんでした…」。
今年6月の唐津グランドチャンピオン優勝直後、池田浩二はこう話した。
過去グランプリを2度制しているが、「ピットから水面に出た瞬間緊張感から開放され、ただ1個の普通のレースだと感じた」と語ったことがあるように、常人では考えられない平常心の持ち主である。
ボートの舳先(へさき)を浮かしつつターンマークをかすめ旋回していくウイリーモンキーの原型はこの人物から生まれた。図抜けているレースセンスやテクニックが活躍の背景である。

しかし、それだけではない。
池田浩二は気持ちの人でもある。

グランドチャンピオンのインタビューで唐津との相性を聞かれ、「人が合う!」と明言した。
風土や気質がピッタリなのだ。“唐津くんち”に代表される「老いも若いも唐津っ子もよそ者も関係ない一体感」と「若い選手に優しく、強い弱いで態度を変えない姿勢」が符合するのである。

2022年はグランドチャンピオンを含めV7。賞金ランキング7位でグランプリ出場条件を完全にクリアしている。
となれば、大好きで相性のいい唐津・全日本王者決定戦で自身2回目の栄冠を獲得し、リズムアップしたいと思うのは人情である。


3623 深川真二

今では珍しくなった「イン屋」の代表が深川真二だ。
2022年1月からのイン奪取率は約30%に及ぶ。各コースにまんべんなく進入すると16.7%となること、さらにやすやすとインを取らせてもらえないことを考えると極めて高い値といっていいだろう。

しかし、「絶対的なイン屋」ではない点は押さえておきたい。
例えば、鈴木幸夫のそれは42%あまりと違いがあるのだ。

さらに、深川真二の場合「3コースまくり」という強烈な武器をもっている点も大きい。
自身の平均スタートタイミングコンマ14よりも速い13で踏み込んでいくのが3コース。わずかコンマ01の違いだと軽くみてはいけない。この約20cmがドラマや展開を生むのである。
3コース3連対率は約66%、3回に2回の割合で舟券に貢献しているのだ。

その戦いぶりはコース取りから戦法まで、スタイルが確立されている。勝負の起点となるからこそファンの信任が集まるのである。

2017年10月のボートレースダービー(平和島)で初めてSGタイトルを手にした時は43歳。あれから5年経ったが、魅力は変わらない。今年10月にびわこ周年を取った勢いそのままに唐津周年2回目の栄冠にまい進する。


4205 山口剛

「真剣勝負します!」。

山口剛はあらゆる場面でこのフレーズを口にする。
「真剣勝負」とは剣の道に由来する言葉だが、全日本刀匠会会長を歴任した月山貞利氏によると、「刀をつくる過程で、身を研ぐようにし一瞬のスキもなく精神を集中する様を指す」という。
そこには伝統工芸品としての刀との対峙(たいじ)があり、一期一会の出会いがあるのだ。

まさに山口剛のスタイルである。
フライング持ちであろうと、予選落ちしたケースであろうと、アクシデント後であろうと、勝ちにいく姿勢は変わらない。いや姿勢だけではなく気概に満ちているのだ。そして、レースは一期一会である。

その精神集中はオフの日にも及び、減量や体力づくりは当たり前の日常…。好成績をマークしているシリーズ中でも思わぬ行動に出る。今年9月の徳山周年記念では、オール3連対をキープしながらピストン2個・ピストンリング4本・シリンダケース交換という大勝負に打って出て勝利(2コース差し)した。攻めの整備ができる人物である。

さらに、「スピードをもって思うところに入るためにレバーを緩めるターンがある」と語るなど、とにかく奥が深い。
「真剣勝負」とはそういう深淵(しんえん)な世界を内包している。


4586 磯部誠

「1円でも積み上げたい」。
11月12日に開幕した丸亀周年記念で磯部誠はこう言って自らを鼓舞した。
その時点で賞金ランキングは17位。微差で追ってくる記念常連が10人以上いて全く予断を許さない状況だった。

そんな中、好モーターも味方しシリーズリーダーとなったが、「途中から賞金のことよりも全国から強豪が集まる周年記念で優勝することにモチベーションの対象が変わりました」と語っている。
つまり、本当の強さを身につけることこそが自らのめざす道なのであり、電卓で計算できることを追求するのでは本物のアスリートになれないという自覚がそこにある。

そして、動機は結果を生んだ。丸亀周年優勝で賞金ランキングは12位に浮上した。初めてのグランプリ出場権を手にしたのだ。

「2022年はすべてのSGに出させてもらいましたが、結果を出せていません。グランプリという世界を自分の目で見たことがないので、確かめてみたいですね」と1年の締めくくりに熱い視線を送っている。

その大舞台の前に唐津周年が待っている。
尊敬する池田浩二も参戦する意義ある記念レースだ。
志や目標を整える大きな契機を得て、さらなる飛躍が待つ舞台と信じたい。


4503 上野真之助

どんな分野でも決断が必要。勝負の世界は言うまでもない。何かを取れば何かを捨てることになるからだ。
佐賀支部が誇る精鋭・上野真之介選手には、人を清々(すがすが)しい気分にさせる潔さがある。

たとえば、その迷いなきレースぶりがそう。アウトを不利なコースと自認するようなところが一切ない。2022年に入ってからの6コース1着率は10%を超えているのだ。

また、特徴的な舟足をつくりあげる点もそうだ。
こんなことがあった。
「めっちゃ乗りにくいけど、伸びていきます」と話していた翌日、その伸びをなくしてでも乗り心地を良くしようと挑戦。しかし、「体感がすごくズレています」と失敗を認め、次の整備に取り組み結果を出した。あっけらかんとしているからこそ劇的な変化が導けるのだ。

2022年3月の下関周年で通算1000勝を達成。その後も白星を重ね1053勝としている上野真之介は峰竜太を師と仰ぐだけでなく、弟子にも恵まれ選手生活の活力としている。
「ほんとうにいい仲間です。恵まれました。彼らにもがんばってもらいたい」と屈託なく語る表情に素直な人柄が表れている。

G1は優出7回ながらまだ優勝はない。地元で満面の笑みを見たいと願うファンは数限りない。


4686 丸野一樹

11月20日時点で丸野一樹は賞金ランキング17位にいる。2大会連続のグランプリ出場がなるか際どいところだが、その賞金ロードは5月の鳴門69周年記念から始まったと言っていい。
6つ目のG1Vに、周囲も「今年もやってくれそうだ」と期待したものである。

しかし、好事魔多し。6月の唐津グランドチャンピオンの予選でフライングに散ってしまったのだ。コンマ01のスリットオーバーだった。

2021年は7月の大けが(左手の骨折等)から奇跡の復活。周囲に勇気と希望を与えつつ、その年は尼崎と若松周年、さらに鳴門BBCトーナメントVを果たしグランプリまで進んだ勇者らしく、今年もくじけずにここまで来た。焦りに負けるはずもない。

その心技体を作り上げる基本が「マルトレ」。体幹を鍛え、整えるメソッドである。
さらに「一般の方々の参考になれば」と、アスリートだけでなく普通の生活者に向けたアドバイスもおこなっている。

「高校生の時の体重は72キロもありました。ダイエットにはサラダチキンや豆腐、ゆで卵などがいいです」といった助言も貴重だ。とにかく世界が広い。
他の競技者との交流やボートレースの魅力の発信までおこなうオピニオンリーダーが唐津へリベンジにやってくる。