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ピックアップレーサー記者コラム

馬場貴也という人物が教えることは際限がない。周囲への感謝、自分への厳しい眼差し、最高技術の習得努力、キレイなレースへの取り組み、人を大切にする考え方…などである。「チャレンジカップで勝ったことで違う景色を見させてもらっている…」。2018年11月の栄冠以降を指す言葉だが、つねに謙虚。自ら勝ち得たことでも環境への配慮を怠ることはない。また、滋賀支部長という重責を担いながら記念戦線に参戦してきたことについても、「おかげで強くなれた部分があります」という。労をいとわない人格者の視野は広くて大きい。ファンは、そのことをよく知っている。感じている。「実直で優しくて強くて…、見事な男です」。はるかに年上の応援者の言葉が見事に言い当てている。昨2021年は、近畿地区選手権(2月の三国)をはじめV4とし、グランプリ3回目の出場を果たしている。そして今年は、びわこの正月レースと戸田、若松の一般戦を勝ってV3。勢いがないわけではないが、2月のびわこ近畿地区選手権はファイナリストになれず苦杯をなめている。舞台は2020年の周年記念を含め過去V14としている地元。きっとリベンジの機会とすることだろう。
「レースはほんとうにカッコつけたい!」。静岡支部の中核、徳増秀樹はかつてこう語っている。それは乗艇前の敬礼からはじまっている。ボートレーサーとは見られる仕事であり、ファンあっての存在であると知っているのだ。映画のワンシーンのような雰囲気でレース場入りする前検日はその序章である。「過去の反省を生かし賞金を積み上げ…」出場したのが2019年と2020年のSGグランプリだが、舞台がどこであろうと勝負魂は一貫している。一点にとどまらず前進しようという気概が生んだもの。それがすなわち通算2000勝&24場全場制覇だろう。自らに対しても妥協なく戦う男である。プロとしてのキャリアは27年あまりだが、そのなかで起きた変化成長に「俯瞰(ふかん)」がある。ものごとの全体像を「鳥の眼」で大きくとらえる、という視点だ。「バートアイ」ともいう。いま自分がどういう状況に置かれているのか、周囲を含めワイドにとらえることで見えてくる狙いがある。そして一気に焦点を絞り立ち向かっていくのだ。まるで鷹(タカ)のような視座である。そんな「俯瞰」の眼が「濃くいく」レースを育み、優勝ゴールの敬礼を生んでいるのはいうまでもない。
2019年3月、吉川昭男は春を謳歌(おうか)していた。G2第62回結核予防事業協賛「秩父宮妃記念杯」を制し、G2初優勝を飾ったのである。デビューから26年10カ月。地元びわこでは20回目の栄冠にして手にしたタイトルであった。「一世一代!」というスタートはコンマ07のトップ。びわこG1の優勝戦で1号艇をゲットしながら「負けて泣いて帰ったこともありました。まさか46歳で取れるとは…」と語っていたのは記憶に新しい。競走水面で行われた水神祭には多くのファンが残って祝福していた。あれから3年が経つが、その間にびわこでは4回も優勝している。周囲が”びわこ番長”というのもうなずける。厳しい勝負のやり取りから逃げない敢闘精神はコース取りから敢行されるが、それだけではない。ここ一番のスタートはすさまじい。たとえば、昨年3月のびわこ優勝戦でみせたコンマ04がそれである。3コースまくりには迫力があった。逃げや差しの的確さはいうまでもないが、吉川昭男には強烈な攻めがあるのだ。ベテランでありながら勝負の趨勢(すうせい)を握る男の存在感は大きい。舞台がびわこだからなおのこと。あの笑顔を再び愛でたいと願うファンは多い。
大上卓人はG2秩父宮妃記念杯のタイトルホルダーである。2020年10月のシリーズでみせた圧巻のまくりは語り草となっている。予選・準優勝戦での勝ち星はひとつ。優勝戦は4号艇となったことで、思い切り伸びを意識した調整に取り組み、コンマ08のトップスタートで内側艇をのみ込んでいる。レース後の涙は「僕一人ではこの結果はなかった」という気持ちからだった。ライバルにさえ分け隔てなく接してくれる先輩レーサーや信じて応援してくれるファンへの感謝である。周囲に応え、また気持ちを伝えるためにもゆるがせにできないスタイルがある。「攻める大上卓人」という勝負のカタチだ。期待を裏切らないからレース展開が読みやすいのも人気の理由といっていいだろう。そして、たとえその攻めが失敗に終わっても、道中全速戦という二の矢が待っており、最後の最後まであきらめることがないのだ。デビュー9期目にしてA級に初昇格した遅咲きは、2017年9月の蒲郡ヤングダービーでギアチェンジ。攻めて攻めて攻め尽くすレースで名を売った。「大上で勝負なら悔いが残らない」という声のゆえんである。「勝っても敗れても納得させる男」こそが大上卓人である。
2020年のびわこ「プレミアムG1ヤングダービー」はいつまでも記憶に残るレースだろう。シリーズリーダーの上田龍星が優勝戦1号艇で3着に敗れたからだ。「1マークの旋回に尽きます。ターンを少し漏らしていたし、外への張りが足りませんでした…」と報道陣に語りつつ「悔しい」と言葉を絞り出している。そのリベンジを同年の下関ルーキーシリーズ(12月)で果たしたかにみえたが、しかし2021年5月の宮島、6月の戸田イースタンヤング、2022年1月の住之江オール大阪でみたび悪夢再来となる。優勝戦でのイン戦敗退である。大型新人上田龍星にとってこの1年半ほどは雌伏の時。努力し機会到来を待つ心境だったろう。「オーバーエージ枠の参戦でしたから優勝しないとダメだと思ってきました。ひさしぶりに優勝できてホッとしました。2022年は優勝回数を増やし、勝率を上げて自力でSG出場権を勝ち取りたい」と語ったのは1月の児島ルーキーシリーズ優勝戦後。いかに苦しい思いをしてきたか分かる。先のびわこ近畿地区選手権(2月)は予選突破ならずも、終盤結果を残している(1・1・2着)。あの悔しさを味わった水面でほんとうのリベンジを果たしてほしいものだ。
西橋奈未のデビューは2016年11月17日の三国。1期目は1.75の勝率で始まったが、すぐに3.58まで上げると2020年後期適用勝率を6.18とし、A1昇格にあと一歩まで迫った。以降4期連続A級(A2・A2・A1・A2)である。初Vは2020年11月のボートレース芦屋。男女混合戦だった。予選から男子レーサーを圧倒し優勝戦はインから逃げている。「男女混合戦で優勝するのが目標でした…」は本音。高校時代、弓道に打ち込み歴史が大好きな工業女子は「女子と男子が対等に勝負できる」ところにボートレースという競技の魅力を感じたのだった。「何ををやってもうまくいかず1年が10年のように長く感じた」養成時代、「先輩との差があまりに大きくてまったく勝負にならない」と実感した新人時代を経て、いまはファンの信頼厚きプロレーサーに成長した。「歯が立たないなら練習するしかないと思い、モーターが焼きつくくらい乗って乗って乗り通した」成果は確実に表れている。びわこは前回(2021年9月)フライングを切ってはいるが、同年7月の一般戦で優出4着としており成績もいい。勝負の要に的確な矢を射ることで勝機をモノにするに違いない。