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ピックアップレーサー記者コラム

びわこで練習を重ね、びわこを成長の舞台とし、びわこから頂点を目指す記念中軸がいる。丸野一樹だ。2011年秋にデビューし11年目になるが、13期連続A級、8期連続でA1級をキープしている。G1初Vは地元びわこの周年記念(2019年8月)。3コースまくりだった。また、並みいるSG覇者を相手に4コースからまくり差して優勝したのが2020年1月の唐津周年。以降記念戦線で結果を出し続け、2021年12月のBBCトーナメント(なると)を含めG1V5としている。さらに、第36回グランプリ(住之江)のファイナリスト(結果は転覆失格)となったことで完全にステージアップを果たしている。その活躍のはじまりは「身体づくり」にある。およそ8年ほど前、丸野一樹は「一からフィジカルトレーニングについて勉強したい」と考え、研究・実践・修正を繰り返すようになった。いまボートレース界に普及している「マルトレ」の源流である。さらに、YouTube「マルトレ/Kazuki Maruno」を通じ、アスリートだけでなく学生や社会人にもその方法を開陳。「身体を一緒に鍛えましょう」とメッセージを送っている。ファンをはじめ一般社会への感謝と共感の表れに他ならない。振り返れば、活躍した2021年とて順風満帆ではなかった。7月には左手の骨折という大けがを負っている。普通最短でも2~3カ月はかかるが、丸野一樹は1カ月で復帰する。蒲郡ボートレースメモリアルに出場し責任をまっとうしようとしたのだ。そして、なんと優出を果たした(結果は5着)。なんという精神性だろうか。なんという身体力だろうか。これからボートレース界を牽引(けんいん)するのは丸野一樹である。
2017年の大村クイーンズクライマックスで優勝しているボートレース界の女子第一人者は、2021年8月の浜名湖レディースチャンピオンでも優勝、G1V2としている。優勝のゴール後、ピットに帰投する際にみせた「セーフ」のジェスチャーは際どいレースであったことを物語るものであった。1周1マークで差されたように見えたからだ。「ターンマークに寄り過ぎる」クセを修正しようとしたものの「行き過ぎてしまった…」という反省があった。心の底から自分自身を褒める気持ちにはなれなかったのだ。レース後口にした「下手で情けない」は本心だった。表彰式の結びに「自分以上に自分を信じてくれるファンの方々がいる…」と言って言葉を詰まらせ目にいっぱいの涙を浮かべていた遠藤エミ。その後、レディースチャレンジカップも優勝し、2回目のクイーンズクライマックス制覇への流れをつかんだかにみえたが、勝負は厳しい。2021年賞金ランキング女子トップに輝いたものの、2017年に続く2回目のティアラ戴冠はならなかった。「2021年の優秀女子選手」は、レディースオールスター・レディースチャンピオン・レディースチャレンジカップ・クイーンズクライマックスの年間4冠制覇を狙うことだろう。「自分以上に自分を信じてくれるファン」のために。
ボートレースはファンのためにある。地域社会のためにある。水上を滑走する選手たちはいずれもそのことを胸に刻んでいるが、代表は今垣光太郎だろう。今年で49回目を迎えるボートレースオールスターは、ファンが出場選手を決める大会。成績はもとより、態度や姿勢・取り組みが投票に反映されるが、2021年までで連続1位となった選手は4人しかいない。今村豊さん(3年連続と2年連続)松井繁(4年連続)今垣光太郎(2年連続)峰竜太(5年連続で記録更新中)である。「選手から嫌われてもいい」。15年ほど前だが、今垣光太郎はこう言い切った。進入をはじめ、スタートやレース運びなど思わぬことを平然と敢行するスタイルに、「折り合い」や「妥協」「想定」は存在しない。むろん「忖度」もない。ゆえに相手は戦いにくいのだ。「選手から嫌われてもいい」という発言の先には「ファンのためにがんばるのだ」という決意が存在している。ファンはそれを認めたたえてきたのだ。今や当たり前になりつつある「3カド」はそもそも今垣光太郎の十八番だったし、「本番でこそ発揮する渾身(こんしん)のスタート」は魅力だ。そこにはセオリーがなく、新しいセオリーを築かんとしているようにみえる。びわこはドル箱水面、過去5回の優勝のうちG1が2回、G2が1回だ。1998年と2002年の周年記念、2010年の秩父宮妃記念である。今回もシリーズの核となるのは間違いない。
「存在感」なるものはいかなるところからやってくるのだろうか…。そのひとつのカタチを示してくれるのが吉川元浩である。通算優勝回数は90回。G1V20、SGV4の猛者である。また、A1 級を21期連続でキープしている。(いずれも2022年1月17日時点)そんな華々しい成果とは裏腹に「押し出す雰囲気」や「派手さ」はない。むしろ「端正な正統派」である。そうして周囲に感じさせる器の大きさこそが「存在感」なのだ。「度量衡」という古くからの言葉があるが、まさにそれにふさわしい人格者は、未来と過去を見通す時間軸が長く、現実を受け入れる器が大きく、言動が重厚である勇者。結果に一喜一憂することがない。2007年12月の福岡でSGグランプリを取ったときに口にした「今年、自分が一番努力した…」という言葉は勝ち取っというおごりから発せられたのではなく、「人事を尽くし天命を得た」という謙虚な心持ちからだったろう。精神性が高い人物である。びわこは過去V3だが、そのうちのひとつがG2競走。2007年8月の秩父宮妃記念だ。さらに、昨年は1月のW優勝戦で勝っている。最終日を除く5日間、毎日2走し連を外したのは1回だけ。相性のいい水面で主役となるのは必至。優勝へ実直に前進する。
タレントぞろいの近畿勢の中で、淡々と実力をつけ地道に前進している中堅がいる。秦英悟である。デビューは2007年の5月住之江。キャリア15年になる36歳だ。G1初出場は2011年1月の新鋭王座決定戦(当時)と早かったが、SG進出には時間を要した。初舞台は2020年のグランプリシリーズ戦だった。蓄えた力にウソはなく、それを証明するように優出6着の成績をマークしている。「その経験が大きいです」と本人が言うように、2021年はグラチャン(児島)・オーシャンC(芦屋)・ダービー(平和島・優勝戦2着)・チャレンジC(多摩川)・グランプリシリーズ戦(住之江)でトップランクの戦いを身に刻みつつV6を達成している。白星は110。122勝だった石川真二や藤山将大には及んでいないが肉薄した。1着率38.6%は驚異的である。過去、「強豪を相手に穴党に応えたい」と再三アピールしてきた中堅が、「近畿の新しい中軸」として第2集団から抜け出し先頭集団に躍り出ている。勢いもいい。びわこは2015年12月と2021年9月に優勝している。昨年のVは2コースから、絶対的と思われた地元の守田俊介を差し切っての栄冠だった。今度のびわこ周年記念は先頭グループを引っ張る役割が期待されている。正面から風を受け、目立ちながら力走してくれることだろう。
異色の経歴を有する者や他ジャンルからの転身組が増えてきたボートレース界。大阪支部の山崎郡もそのひとりである。漫画・バリバリ伝説の主人公の名そのままにオートバイのトップレーサーとなり、鈴鹿選手権や全日本ロードレース選手権で活躍した。繊細なメカと向き合い、一瞬のミスも許されない中に身を置いてきただけに完成度は高い。それでいて、悲壮感や、やけどしそうなほどの闘志は前面に出てこない。悠然としている。おそらく、本人が語る「型にはまったら伸びない」「何をやるか判断する時にひらめきが重要」という哲学と関係があるのだろう。ボートレーサーの多くは、自分なりのプロペラの形や調整手順を持っており、その段取りを守りながら仕上げていこうとする。スタイルを守ろうとするのだ。しかし、山崎は違う。前の選手が一節かけて調整・整備したモーターをそのまま受け入れるという。まず、乗ってみるというのだ。「こういう方法があるんだ、という発見もあります。ゲージが合わなくても、出ている時にはノーハンマーで通します。そしてダメなら、やってみるということ。決めつけないようにしています」と語る。俺はこうするんだ、という力みがないのは、進む先や進み方を流れに任せられるスケールを持ち合わせているからだろう。人間が大きい。「乗り方や操縦も仕上がり具合によって変えるというか、変わります。すべてに型がないのが今の自分ですね」と話す。与えられた状況を受け入れる器の大きさが悠然とした態度につながっている。「本物の自在派」である。