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ピックアップレーサー記者コラム

「石野貴之は大丈夫なのか…」昨年10月の大村ダービー1走目でフライングを切ってからこうしたファンの心配の声が広がっていた。一時期、明らかに不調をかこっていた石野貴之。イン戦5連敗というのもあった。その5敗はいずれも3連単にさえ絡んでいない。「A1陥落か」とつぶやく者さえいた。覇気がいまひとつ感じられない雰囲気が変わったのは今年3月の若松周年。「自分のおかれている状況は分かっています!」と明言したのだ。そこには調子が悪いからこそ勝負するんだという気概で満ちていた。そして、存在感を示した。
この若松周年の次が福岡ボートレースクラシックだった。初日こそ5着スタートだったが、シリーズ3勝をあげ優勝戦に1号艇で進出。インから的確に逃げて9つ目のSGタイトルを獲得したのである。「不振の原因は分かっていますが、改善できるかどうかはまだ分かりません。しかし、状況を打開しないといけない。大きなことは言えませんが、少しは光が見えたと思います。自分を見つめ直し一走一走頑張っていきたい」とする決意に実直な人柄が表れていた。現状に甘んじることなく挑戦を続けていく石野貴之はほんとうに勇ましい。
かつて「差し屋」と言われることもあった河合佑樹。まくりのカタチができても待って差すことがあった。その立ち居振る舞いとあいまってレースも上品…。裏を返せば、勇猛果敢という雰囲気や迫力に欠けると思われていた。しかし、今の河合佑樹は違う。テクニカルな戦法だけでなく、時に思い切りのいい攻めで相手をねじ伏せようとする。すなわち「強引さ」の追究である。その端緒は2018年4月の常滑のG2モーターボート大賞にあるだろう。このシリーズ、河合佑樹は磯部誠や西山貴浩とともに活躍し優勝戦は3号艇となった。強い風の中、まくり差して一旦先頭に躍り出た河合佑樹だったが、西山貴浩の追い上げ逆転を許してしまった。悔しさは容易に想像できる。その翌年、7月の尼崎G2モーターボート大賞で優勝する。「ホッとしています。ダメモトの気持ちでした。スタートは思い切り行けました。1Mは自分のターンをすることを心がけて良かったです」と素直だった。そして、「思い切り」ということばが何度も出たインタビューだった。さらに、「上の舞台で揉まれたい」と公言した河合佑樹。以降、「思い切り」を糧としたチャレンジは続いている。
河合佑樹と同期の102期生は昨年6月の宮島グランドチャンピオンで、初めてSG優出を果たした。「準優勝戦は経験したことのない緊張感を味わった」というが、「緊張しているということは自分が集中できていないのではないかと思った…」と冷静に振り返っている。準優本番は集中力を発揮しスタートを決めファイナリストになり優出。優勝戦2着に入っている。(優勝は徳増秀樹)グランプリ覇者で、賞金・勝率ともボートレーサーの頂点に立つ峰竜太を師と仰いだ意義は大きい。20代で弟子を取った峰に対し首をかしげる者もいたが間違っていなかった。その人間性や思いやり、世界観を慕った上野真之介にとって、峰竜太は「人生の羅針盤」である。先々の不安が頭をよぎるタイプだったが、「いま現在を考えるようにして」成長できたという。考え方を根本から見つめ直すことのできる「素直さ」が持ち味である。余計な計算のない人物は、勢いに乗ったら止まらない。昨年9月から10月にかけて5連続優出4優勝という快挙を成し遂げているが、今年も5月に入って唐津・大村で連続優勝し勢いがある。優勝歴のあるびわこでさらに加速できれば、G2初制覇は自然の流れだ。
「ドキュメンタリーを見ています」。これは中村桃佳のことば。「動画サイトでも、なが~い作品を見ています」という。一瞬の面白さではなく、意味や価値を考えたいというプロセス重視の人である。外見の大らかさや自然な感じとは違う人間性を忘れてはならない。デビュー戦からわずか1年8カ月の下関、市川哲也・江口晃生・岡本慎治らの強豪男子を相手に5コースからまくり差して衝撃の初Vを飾ったが、あれから5年半が経とうとしている。飾りよりも内面重視のスタイルを通せるのは実力があるから。初V後、B1からいきなりA1に昇格したのもそう。勢いだけで到達したのではない。自分なりに方向性を模索し行動で確かめてきた過程があるのだ。そして、意志決定したら通し抜く実行力がある。竹田和哉との結婚・出産・復帰と、惑うことなく自らの道を堅実に進んできたのもその表れだろう。ママさんとなった中村桃佳は1年4カ月の産休を経て昨年4月に復帰したが、すぐに6点台をマーク。2021年後期はA1級にもどる。いま、夫の竹田和哉も調子が良く後押しとなっているのは間違いない。びわこでの活躍に期待する声が集まるのは自然なことである。
「気持ち・行動・習慣・人格・運命です」。大山千広は座右の銘について動画サイトの取材にこう答えている。高校時代、部活動の顧問から教わったという。「運命を変えたかったら気持ちを変えないといけない。気持ちが変わったら行動…」という道筋で向上していこうとしているのだ。養成時代からその座右が力となり勝率は6.83。女子レーサーとしては圧倒的な値をマークした。リーグ戦も第1戦・第2戦と立て続けに優出、第6戦と第7戦もファイナリストになっている。当然のように修了記念競走もベスト6に入った。結果は6着だったが将来性を感じさせたのである。母・博美さんの背中を見て育ち、家で切り盛りする姿とレースで活躍する姿の両方にかっこよさを感じていた少女時代…。その思いがいかに鮮明で濃いものであったか、それは時間が経過した今こそ分かる。憧れは人を成長させ夢を与えてくれる。恩師のことばを胸に刻んでいるように「憧れ」もモチベーションに欠かせない。「憧れ」はファンも抱く。人生の糧になることもある。だからこそファン投票が集まる。レディースチャンピオン女王の大山千広は、そうしたファンの視線を背中に感じている。
ボートレーサーの魅力をよく知っているのはファンである。デビュー当時からの変遷や成長の足跡はレースをつぶさに観戦している者にこそ分かる。数字がすべてではないのだ。その意味で澤田尚也の注目度は高い。ファンを唸らせるレースをするからである。少数精鋭ながら攻めるレースを目指している滋賀支部に所属。大マクリだけではないキレの鋭いハンドル&レバーワークでライバルを打倒しているのが澤田尚也だ。鮮やかな旋回はファンのハートを射止めるに十分である。初優勝は4月6日の三国。3コースからのまくり差しだった。12,370円の高配当ながら「もっとついてもいいのに…」という声があったのも事実である。現在勝率5.17でB1級だが、7月からは6.03でA2に昇格することが決まっている澤田尚也。自在戦を安定させるためには繊細なスタート力が求められる。ゼロ台連発かと思えば数字が大きくなる現状を打破した時、きっと大躍進の時がやってくるだろう。地元びわこの水面は一筋縄ではいかない。それだけに多彩な選択肢を持っているかいないかが重要になるのだ。若手はこうした厳しい環境でこそ育つ。澤田尚也がそれを証明してくれる。