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ピックアップレーサー記者コラム

「年間を通し悔しい経験もしましたが、結果を出すことができてうれしい一年でもありました。まだまだ自分のターンは完成していません。もっと精度を上げられると思っています。2023年もファンの方々に楽しんでいただけるレースをしていきます」。馬場貴也は、令和4年優秀選手表彰式典でこう話した。賞金ランキングは2位ながら、常滑ダービーや下関&戸田の周年記念Vが高く評価されたのだ。そして、今年も住之江の近畿地区選手権で優勝を飾るなどV3。(6月11日時点)賞金ランキングは15位だ。かつて、「これほど立派な選手はなかなかいない」とベテランファンが語ったように人柄は誠実。自分のことはさておき他人を慮(おもんばか)ることができる。滋賀支部長として裏方への配慮を忘れない姿も崇高だ。記念レーサーはあっ旋も多く忙しいはずなのに「そのことがあって強くなれました」とさえ言える器の大きさだ。まさに真の勇者である。地元びわこは通算V16。参戦メンバーを見渡しても圧倒的に強い。最近3年間のびわこ1着率はなんと45.6%、6コースでも15.3%だ。さらに、3連対率は全コース通算で81.3%と驚異的。ディフェンディングチャンピオンが優勝候補筆頭であることに異論はないだろう。
「みんなが幸せになってほしい」これは峰竜太の心からの声である。「ALOHA」の決めポーズには、思いやりや調和、心地よさ、謙虚さ、忍耐強さが集約されているが、それはすべての人に向けられたメッセージ。と同時に自分への励ましでもある。困難に立ち向かっていく姿をみているファンがいる。下を向くわけにはいかないのだ。今年度はここまでV3。なかでも津の周年記念競走(4月)は圧巻だった。2コースからまくりに出た高田ひかるに対し、4コースの峰竜太は狭いところを突くまくり差し。内から差し技鋭く旋回した桐生順平との大接戦となったが、2マークでスピード旋回を披露。先頭に踊り出たのだった。それはまさにターン力の勝利であったと言える。また、びわこは一昨年の周年記念競走で優勝を飾るなど実績も残しており不安要素は多くないが、課題がないわけではない。それはびわこのアウトの戦い方。過去5年間でびわこを41走しているが、6コースの1着2着はゼロ。その能力をして届かない領域があるのだ。しかし、だからといって6コース戦を敬遠してはならないだろう。困難に立ち向かっていく姿勢こそが持ち味だからだ。びわこを舞台にどんなレースで感動にいざなってくれるだろうか…、関心は尽きない。
いうまでもなく、白井英治は2023年のグランプリ覇者であり賞金王だ。ただ、昨年8月の浜名湖メモリアル優勝戦でフライングを切ったため、記念戦線から遠ざかっている。今はいわば「ガマン」の時である。しかし、「ガマン」のエネルギーはすさまじい。6月11日までの今年の優勝歴は以下のとおりだ。1月1日 徳山一般戦1月9日 下関一般戦1月28日 徳山一般戦3月5日 丸亀タイトル戦4月11日 若松一般戦5月3日 徳山タイトル戦6月4日 若松一般戦通算V7で賞金ランキングは32位と高くないが、1月からの勝率は8.59でダントツの1位。負けない勝負師として信頼が厚い。それを支えているのは戦闘能力。2023年後期対象期間内の1コース1着率は89.3%と驚異的な値を示している。レジェンド・今村豊さんをして、「若い頃から挑戦する気持ちがすごかった」と言わしめるボートレース界の宝は、これまで数々の辛酸をなめてきたが、その度立ち上がり盛り返してきた歴史を刻んでいる。それも清々しく朗らかに…。今回の舞台びわこはあっ旋の少ないレース場だが、持ち前のレース力をいかんなく発揮してくれることだろう。びわこに「ホワイトシャーク」登場である。
中四国地区には、はるか以前から強い女子レーサーが多く存在してきた。それは、昨年が36回大会だったレディースチャンピオン覇者をみればわかる。およそ半分にあたる17人が中四国地区の選手(優勝当時の所属支部で計算)なのだ。そんな中に際立つ個性派がいる。岡山支部の堀之内紀代子である。昨年のクイーンズクライマックスに12番目で滑り込んだ岡山のベテランは、その直前の鳴門・レディースチャレンジカップを前に「とうとうここまで来ました…」と語っている。チルトを跳ね「伸び仕様」にする手法に不安を抱えながら通してきたことへの感慨である。それは、自己変革への志そのものと言ってもいいだろう。「攻め過ぎる気持ちとターンマークとの距離感を直さないと…」と語っていたのは15年ほど前。20代後半のことだ。以降、レースの方向性を変えたことでA級に定着したが、何かが足りなかった。忸怩(じくじ)たる思いがあったろう。「このままでいいのか…」と。そこで決断したのが、チルトを跳ねて伸び勝負に出るスタイル。キャリアを捨て得た新境地である。40代にしての大改革だ。凝り固まったプライドのない、むしろ新人のように一生懸命で初々しい姿に共感するファンは多い。センターが利くびわこならなおのことだ。
しばしば「ものごとには絶対はない」という。真理を追究する学問の世界でさえ、永きにわたる常識が覆されることがある。スポーツ界はなおのこと。新理論が続出し競技そのもののあり方さえ変えてしまうほどだ。一方、温故知新ということもある。既成のことがらから新しい道理が得られるという道筋だ。三重の高田ひかるは温故知新の人。現役レーサーにとどまらず、高齢の元選手の見解に真摯(しんし)に耳を傾けてきた。圧倒的な伸びは、そんな「傾聴」から生まれたといってもいい。「ある人からこっちの方がいいんじゃない、と言われた」のが「まくり姫」の序章。当然のことながら菅章哉らの存在は小さくない。驚きは刺激となり、憧れを生んで成長につながったのだ。そして、他に刺激を与える存在になっている。そうした取り組みの成果は、2023年の後期適用勝率7.08や今年4月の鳴門オールレディースVに表れているが、展示タイムを出し続けている点は無視できない。過去1年間(2022年6月1日~2023年5月31日)318走の展示タイム平均順位が何と1.25なのだ。展示タイム1位をずっと取り続けている計算である。それでいて1コースにもしっかり入り1着率は62.6%を数えている。「まくり姫」は単なるまくり屋ではないことは改めて確認しておきたい。
滋賀支部の澤田尚也は2023トップルーキーである。登録6年以内のA1レーサーから特別に選ばれた10人の内の一人だ。昨2022年に続き2年連続の選出である。幼少期から競走することが好きで、F1レーサーを目指したこともある澤田尚也。伝説のアイルトン・セナ(故人)がそうであったようにカートでスピード感覚を磨いてきた。そもそも、走ること、競うこと、勝つことに魅力を感じているのだ。武器であるスタート力と攻撃力は養成所時代から大切にしてきたもので、121期修了記念競走優勝戦で成果が発揮されている。「何度も何度も頭の中でシミュレーション」し、本番はコンマ12のトップスタート。3コースから豪快にまくり切りチャンプに輝いたのだった。晴れてボートレーサーになったのは2017年秋。水神祭はデビュー1カ月後の地元びわこ、同期一番乗りをマークしている。以降堅実に成績を伸ばし、2023年後期を含め4期連続のA1級。自身の最高勝率はこの7月からの6.83と、7点台に手が届きそうな勢いだ。初Vは2021年4月の三国。2022年には常滑と三国で優勝、今年4月には浜名湖で4つ目の栄冠を手にしている。地元びわこ初優勝が待ち遠しい。