背景

ピックアップレーサー記者コラム

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ピックアップレーサー記者コラム

3783 瓜生正義

住之江の第36回グランプリは瓜生正義が優勝した。1億円を加算した年間獲得賞金は1億7211万円となり、文字通り「賞金王」に輝いている。
スタート展示は4コース。本番は1245/36で3コースに入り果敢にまくって出た。
この優勝戦は妨害失格と転覆失格のため4艇がゴールできなかったこともあって、どうしても勝ちっぷりが薄れがちだ。
しかし、本人は「事故はほんとうに残念ですが、回るときには決まったなと思った」と自制的に、そして明確に語っている。飾り気のない実直な語り口ゆえ聞き逃してしまいそうだが、「1マーク前で勝利を確信した」と言っているに等しい。レースイメージができており、操縦テクニックやモーター力に自信があった証拠である。やはり競技者である。

アスリートのスタイルはさまざま。闘志をむき出しにする猛者がいる一方、飄々(ひょうひょう)としている者や学者肌、そして自制型などがある。瓜生正義は自制タイプだろう。
自分を最優先にしない他者の視点をもつ行動哲学者は、何と戦うのか、何を目指すのか、何を与えるのか、といった命題と向き合う大きな人間である。人は大きいものに憧れる。それはそのまま人気の秘密でもある。


3854 吉川元浩

「度量衡」(どりょうこう)という言葉がある。度は長さ、量は体積、衡は質量を表す。つまり、ものさしや秤(はかり)の基準を意味するが、「人物の大きさ」をはかるときにも使うことばだ。
未来と過去を見通す時間軸が長く、現実を受け入れる器が大きく、言動が重厚である者を、人は尊敬する。吉川元浩はその代表である。

結果に一喜一憂しない姿勢はデビュー当時から一貫しているが、2007年12月の福岡でSGグランプリを取ったときに口にした「今年、自分が一番努力した…」という言葉は重い。それは、やった分を勝ち取ったというおごりではない。「人事を尽くし天命を得た」という謙虚な心持ちだったろう。精神性が高い人物である。

尼崎では2018年7月に周年記念タイトルを取っている吉川元浩。5コースから鮮やかにまくり差した優勝は見事だった。地元は気持ちも違う。ダイヤモンドカップ(2000年12月)や近畿地区選手権(2008年2月&2016年2月)を含めると尼崎ではG1V4。やはり今シリーズの大看板であることは間違いない。

「度量衡の人」吉川元浩がいるだけで、G1センプルカップは引き締まり緊張感も期待感も増すというものだ。


4238 毒島 誠

勝負師を勝負師たらしめる条件のひとつに「記憶力」がある。一流のキャッチャーはゲーム後、スコアブックなしに配球を完全に振り返ることができる。将棋界における棋譜の記憶も同様だ。
ボートレース界では毒島誠がその体現者。デビュー当時から調整やレース内容をメモし続けている。「いちいち見直しているわけではないんです。書くことで頭に残るんで…」と謙遜するが、記録の中には振り返りたくないことも含まれる。失敗を含めた戦いの記憶はこうして心に刻まれ、反骨精神や探求心につながっていくのだ。嫌なことに向き合い、苦しむことを受け入れるのが勇者の条件。毒島誠の存在は大きい。

近年は身体をバランスよく鍛錬するメソッドを自ら確立。内容を変えながら視線を未来に向けている。
その成果のカタチが2021年7月のボートレース甲子園(丸亀)の優勝(オール3連対)であり、11月の三国周年記念のパーフェクトVである。本人も一年を振り返り、「三国で完全優勝できたのは大きい…」と述懐している。

今回の舞台は、2014年6月のセンプルカップで2コースからまくって優勝した尼崎。経験値を駆使した新たな挑戦が待っている2022年初頭だ。


3897 白井 英治

「ホワイトシャーク」…いわずと知れた白井英治のことである。
かつてそうした異名をもつレーサーは多数いたが今は少ない。それだけ異彩を放つ存在だということだ。
かつて、プロゴルフ界で活躍したグレッグ・ノーマンと重なる印象からつけられたニックネームには「風貌をはじめ技術や人間性の魅力」が背景としてある。グレッグ・ノーマンはそうしたアスリートだった。
そして、白井英治も「品格」を求めている。

2021年は賞金7位の前本泰和と184万円差の6位。グランプリトライアルセカンドからの参戦を決めたが、元来ライバルの動向を気にするタイプではない。スタートにしても展開にしても自力で切り拓き「品よく勝ちたい」と志向する勇者だ。その生きざまは尊敬する今村豊さんから授かっているが、その師匠は「勝てばいいというのはアスリートではない。勝ち方やレース内容を重んじたい」と信念を語っている。薫陶が生きているのだ。

そうした内容重視の考えをもちながら、過去10年間の平均勝率は8.02。20期中11期で8点台としている。ほんとうに強い。過去V2も記念Vがないのが尼崎で、いきなり年頭のダッシュをかけてきてもおかしくはない。


4885 大山 千広

平成30年優秀選手表彰式典で「最優秀新人選手」に選ばれた大山千広は2世レーサー。2018年10月に引退した母・博美さんの背中を見て育ってきた。
「小学生の頃から憧れていました…」。
その対象である母は選手の道を歓迎したわけではなかったが、迷いはなかった。養成所には1発で合格している。

積極的に学ぶ姿勢はすぐに花開き、デビューおよそ1年半の2017年福岡オールレディースで初優勝。2018年(平成30年)は年間V3で堂々「最優秀新人選手」に輝いている。
大らかな人柄に加え、強さと手堅さを両立したレースぶりの背景に「既成概念にとらわれないチャレンジ精神とへこたれないメンタルがある」と母は話す。「ほかの若い選手と違い、質問の内容のレベルが高い」とSGレーサーが感嘆する要因がここにある。男子レーサーに「ターンで負けた」と何度言わせたことだろう。

レディースオールスター初のファン投票1位(開催年で)となった2019年に、レディースチャンピオン(蒲郡)のタイトルを取り、2020年・2021年と連続でファン投票1位になった女子代表が、フライング禍でやや苦しんだ近況を必ずや跳ね返してくることだろう。


4686 丸野 一樹

「マルトレ」が浸透している。丸野一樹が取り組む体幹トレーニングだ。「身体を基礎から学び直したい」と語っていたのは7年ほど前。専門家の指導のもと始め、いまやトップレーサーにも影響を与えはじめている。
YouTube「マルトレ/Kazuki Maruno」を通じ、アスリートだけでなく学生や社会人にもトレーニング法を開陳。「身体を一緒に鍛えましょう」とメッセージを送っているが、これは共感と感謝の表れだ。

その効果が結果として開花したのは2019年のG1びわこ大賞。3コースまくりを決め優勝した直後「攻めることしか考えてなかったです」と振りつつ、「身体作りは大切。体重も管理できています」と地元ファンの前で語った。
さらに、並みいるSG覇者を相手に4コースからまくり差し優勝したのが2020年1月の唐津周年。鋼の身体が自信につながったのは明白だった。
2021年7月の大けが(左手の骨折等)から復活した回復力や精神力とも無縁ではない。

すべてのSGにエントリー、初のグランプリ出場を決めた2021年の皮切りがセンプルカップVだった。ディフェンディングチャンピオンとして凛々しく立ち回るシリーズとなる。